研究概要 |
多くの日本人の胃粘膜は加齡と共に萎縮し,壁細胞が減少して低酸状態になるが,逆に血中ガストリンは高値を示すようになる。この胃粘膜萎縮状態は胃癌の発生母地と考えられている。ガストリンは胃体部の壁細胞を刺激して胃酸を分泌させると同時に粘膜を肥厚させる成長因子作用を持ち,高濃度のガストリンはその受容体を持つ腸クロマフィン様細胞の腫瘍化をおこす。 ガストリンは胃前庭部G細胞で前駆体として産生され、ガストリンの両端に位置する塩基性アミノ酸対が切断を受けて18個のアミノ酸から成るガストリン-Glyができ,更にカルボキシル端がアミド化をうけて活性型ガストリン(G17-NH_2)となる。この反応は内分泌細胞に特異的で,線維芽細胞のような非内分泌細胞でガストリン遺伝子を発現させてもG17-NH_2は産生されない。我々はまず,内分泌細胞のみならず非内分泌細胞でもG17-NH_2を産生できるプロガストリン発現ベクターの作成した。即ちガストリンが非内分泌細胞に広く存在するFurinで切断を受けるように,G17-NH_2のアミノ酸のLys^<-2>-Lys^<-1>を-Arg^<-4>-Arg^<-3>Lys^<-2>-Arg^<-1>に変え,更にDNA上からG17-Glyのカルボキシル端側伸展ペプチドを除去した。このDNAをモンキー腎細胞由来COS細胞とハムスター卵巣由来CHO細胞に導入すると,COSはG17-Glyを,CHOはG17-NH_2を産生した。COS細胞でアミド化酵素cDNAをガストリンcDNAと同時発現させるとG17-Glyが減少,G17-NH_2が著明に増加した。即ち,非内分泌細胞においても生理活性型ガストリンG17-NH_2を産生できた。このガストリンはラット胃灌流実験で合成ヒトガストリンと同等の胃酸分泌能を示した。 この変異ガストリンcDNAをマウス受精卵に注入し,高ガストリン血症マウスの作成を行った。マウス尾より採取した血液のDNAを鋳型にしてガストリンcDNAのPCRを行ない,予想されたサイズのDNAの出現を観察した。遺伝子導入マウス16匹から血清を得,ラジオイムノアッセイを行なったところ2匹に軽度のガストリン血症(200-250pmol/ml)を認めた。現在軽度ガストリン血症マウスを交配させながら,更に高いガストリン血症マウスを検索中である。
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