研究概要 |
劇症肝炎と病態の類似している肝部分切除後エンドトキシン誘発ラット障害肝モデルでは,肝マクロファージにおける組織因子(TF)活性が著増しており,類洞内皮細胞におけるトロンボモジュリン(TM)は軽微である。本モデルで,組み替え型TM及びTF経路阻害剤(TFPI)を用いた治療実験を行ったところ,何れの投与によっても凝固亢進状態と肝障害は軽減した。従って,このモデルにおける類洞内凝固は,肝マクロファージにおけるTF活性が著増した結果,TM発現が軽微である類洞内皮細胞との間で凝固平衡が破綻して成立することが証明された。なお,投与したTFPIは5分後には血中から消失し,以後は類洞内皮細胞表面に結合して存在していることが免疫組織学的に確認された。TFPIはヘパリンを投与すると再び血中に出現したことから,類洞内皮細胞表面のヘパリノイドに結合して抗凝固活性を発揮していると考えられた。従って,本因子による抗凝固療法は,類洞内皮細胞を標的とした選択的治療に相当するものであり,注目される。 劇症肝炎と同様の広汎肝壊死を示す肝移植後primary graft non-functionの病態はラット同所性移植肝を用いて検討した。移植5時間後の肝類洞で内皮細胞破壊像とフィブリン沈着が観察され,また,アンチトロンビンIII濃縮製剤を用いた治療により肝障害は改善した。従って,移植後肝障害の成立にも類洞内凝固が関与することが明かとなった。肝移植後のprimary graft non-functionの対策にも抗凝固療法が注目される。
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