研究概要 |
健常人および慢性呼吸器疾患患者の運動筋の血液量の変化や、ヘモグロビンの酸素化状態の変化を、近赤外分光法(NIR)で測定し、同時に測定した^<31>P-magnetic resonance spectroscopy (MRS)でとらえた筋肉のエネルギー代謝との関係を検討した。対象は、健常人7人、および慢性呼吸器疾患患者8人。運動負荷は、レバ-の先に重りを吊るし、レバ-を握ることによってこの重りを5cm持ち上げる運動を1分間に20回、3分間施行した。^<31>P-MRSとNIRを同時に測定するために、NIRの送光用ライトガイドと受光用ライトガイドは、非磁性体のみで製作し、4cmの表面コイル内に埋め込んだが、^<31>P-MRスペクトルの分解能やS/N比には影響を及ぼさなかった。NIRの使用波長は、780,805,830nmで、その反射光の吸光度の変化から、酸化ヘモグロビン(oxy-Hb)、還元ヘモグロビン(deoxy-Hb)、総ヘモグロビン(total-Hb)の相対変化を計算した。組織の酸素抽出の程度を推定する1つの指標として、[△[deoxy-Hb]_t-△[deoxy-Hb]_<REST>]/[△[total-Hb]_t-△[total-Hb]_<REST>](t:運動開始後の時間、REST:安静時)を計算し、酸素抽出率とした。^<31>P-MRSに関しては今までの我々の報告通りに、患者群でPCrの低下とpHiの低下を示し、嫌気的解糖が動員されていることが示唆された。NIRでは、total-Hb,oxy-Hb,deoxy-Hbの変化のパターンには、健常人と患者群では大きな差は認められなかった。健常人では負荷が強くなると、酸素抽出率が増加し、酸素需要の増大を補っているが、患者群では、8人中4人で、組織が酸素不足で嫌気的代謝を始めているにもかかわらず、酸素抽出が増大しなかった。これは、酸素の供給が少ないために、嫌気的代謝が動員されるのではなく、筋肉そのものの代謝系が変化し、そのため組織で酸素を利用する能力が小さくなったことを示唆していると考えられた。
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