研究概要 |
アンギオテンシンII(AngII)は特異的受容体を介して強力な昇圧作用や細胞増殖作用を発揮する。AngII type1a受容体(AT1a-R)は細胞特異的に発現調節され、心血管系では豊富に発現し神経細胞ではその発現は低く抑制されている。私達はAT1-R遺伝子の細胞特異的発現に関与する転写調節機構の解明および心血管系とくに病態心での発現調節に焦点をあて研究を進めた。 1. AT1-R遺伝子の転写調節の分子機構 ラット全遺伝子ライブラリーよりAT1a-Rの上流域を含むクローンの単離に成功した。 AT1-R遺伝子は3つのエクソンより構成され翻訳領域は第3エクソンに存在していた。転写開始点を決定しCAT遺伝子を用いてプロモーター解析を行った。陽性cis調節配列(P1,-560〜-489,P2,-331〜-201,P3,-201〜-61)および陰性cis配列(NRE,-489〜-331)が同定された。NREは神経細胞(PC12)でのみ働き、他の血管平滑筋細胞やダリア細胞では転写活性を示さなかった。NREには分子量約53KDaの核蛋白が結合し、PC12細胞・脳に存在していた。この蛋白は遺伝子転写活性を約10倍抑制し神経細胞でのAT1a-R発現抑制に重要な働きをすると考えられた。プロモーター領域には糖質ステロイド応答領域が存在しAT1a-R遺伝子の糖質ステロイド感受性を与えていた。 2. AT1-R遺伝子の心筋再構築での発現調節 ラットの肥大心、実験的梗塞心でのAT1a-Rの発現を検討した。肥大心ではAT1a-Rの発現はmRNAおよび蛋白とも約2〜3倍増加していた。梗塞心においてもAT1a-Rは約3倍増加し、この増加は遺伝子転写を介することが確認された。AT1a-RサブタイプであるAT1b-Rはこれらの病態心では全く変化を示さなかった。このように心筋再構築の病態ではAT1a-Rの発現は増加しAngIIの作用が増強して発揮されることが示唆された。
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