研究概要 |
新生児期の幼若な肝細胞の生理的な機能的変化を明確にするために我々はこれまで新生仔ラットの初代単層培養肝細胞をもちいて研究をおこなってきたが,本研究ではより生体内での肝の組織学的構造に近い多層培養肝細胞系のモデルを作成し,蛋白分泌などの高次機能,毛細胆管の発達,胆汁排泄能の変化,薬剤の影響等を検討した. 新生仔ラット肝細胞をPolyhydroxyethyl Methacrylate(PHMA)でコートした培養皿に培養し,開始後5日目にはドーム状の多層集合体(ヘミスフェロイド)を形成した.牛血清アルブミン(BSA)でコートした培養皿に培養すると完全な球状の多層集合体(スフェロイド)を形成した.EIA法により定量したアルブミン分泌能は,単層培養では培養開始2日以降低下し14日では検出されなかったのに対し,PHMA上のヘミスフェロイドでは2-4日にかけて増加し14日間分泌能を維持していた.同様な三次元構造をもつ培養法として,ゲル化したコラーゲン層間に肝細胞をはさんで培養するコラーゲンゲルサンドイッチ培養法で新生仔ラット肝細胞を培養したところ肝細胞はコンパクトな立方形を呈し,スフェロイドと同程度のアルブミン分泌能も2週間にわたり維持することも明らかとなった.蛍光色素を用いたactin染色により毛細胆管様構造を確認した.ヘミスフェロイドでは表面に毛細胆管開口部と思われる構造が認められた. 以上の結果より,本研究では幼若な新生仔ラット肝細胞の3次元培養モデルを確立し,そのモデルでより長期に肝特異機能および形態を維持することができた.新生仔培養肝細胞の毛細胆管の形態と排泄能は催胆汁うっ滞薬剤やホルモンの影響をうけることが明らかとなり,生体内肝細胞により類似した本モデルは新生児期の肝内胆汁うっ滞機構の解明に有用と考えられた.
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