胎児頻脈性不整脈は、放置すると胎児水腫(胎児の心不全)に陥って胎児が死亡する可能性があり、予後不良であるが、胎児の頻拍時の病態生理はほとんど不明で、心不全に至る機序や治療のタイミングについても一致した見解が得られていない。そこで、胎児の上室性頻拍モデルを羊胎仔に実験的に作製し、その病態生理を解明した。妊娠緬羊で麻酔下に腹壁、子宮を切開し、胎仔を露出、胎仔の動静脈にカニュレーションと右房ペーシングを可能とし、200、300、350、400回/分で右房を高頻度ペーシングした。右房高頻度ペーシング時における、羊胎仔の1)中心静脈圧、大動脈圧、左右の心拍出量を測定し、2)脳循環を観察した。 羊胎仔の右房ペーシングレートが300回/分以上で右室心拍出量は減少し、350回/分以上では中心静脈圧が上昇して大動脈圧が低下した。左室心拍出量は一定であった。中心静脈圧が上昇したにもかかわらず心拍出量が減少したのは、頻拍に伴う拡張期の短縮により心室充満が不十分なためか、あるいは胎仔心機能に予備力がなく十分な心拍出量が得られなかったためと考えられた。胎児の心拍出量の減少は胎盤循環の減少につながり、これは胎児の生命維持に悪影響を来す可能性がある。従って、胎児頻拍は心拍出量の減少によって心不全や胎児死亡の原因となりうる。一方、胎仔総頚動脈の血流量は、右房ペーシングレートを多くしても一定で、頻拍により胎仔の心拍出量が減少しても脳循環が保たれていることが判明した。 今回の検討から、胎児の上室性頻拍では、1)たとえ心奇形がなくとも、300回/分以上の頻拍では心拍出量が減少して心不全が起こりうること、2)心拍出量が減少していても脳循環を保つよう血流の再分布現象がみられることが判明した。
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