研究概要 |
昨年にひき続き、乾癬表皮のcornified cell envelopeの形成における構成タンパクの役割をインボルクリン、ロリクリンについて正常表皮と比較検討した。その結果、正常表皮ではインボルクリンの沈着にともないcornified cell envelopeの形成が角層下方ないし角層直下で起こること、次いで角層上方に至ると、インボルクリンの染色性は減少しロリクリンの沈着が認められることが示された。一方、乾癬表皮ではcornified cell envelopeの形成は、表皮のより下方から始まり、ロリクリンの染色性は低下したままであり、インボルクリンの抗原性は角層上方まで維持されることが示された。乾癬ではインボルクリン主体のcornified cell envelopeの形成がより未分化な段階の表皮細胞でなされてしまい、その後、他の構成成分による修飾はあまり起こらないものと考えられる(Journal of Histochemistry and Cytochemistry (in press))。 インボルクリンの遺伝子発現はprotein kinase CによりAP-1を介して制御されることをわれわれはすでに見いだしているが、本年度の研究により、インボルクリン遺伝子mRNAは乾癬で増加していること(Br J Dematol (in press))、またインボルクリン遺伝子は転写因子TEF-1により抑制的な制御を受けることが示された。TEF-1は基底細胞層で発現が強くインボルクリンが基底細胞層で発現しない理由の1つを提供していると推定される(Arch Dermatol Res 287:740-796,1995)。TEF-1とAP-1、特にprotein kinase Cサブタイプとの関連は今後の問題である。乾癬表皮はターンオーバー時間の短縮が認められるが、このこととcornified cell envelopeの形成を含む角化機構の異常との関連が明確になった。すなわち乾癬では増殖亢進にともなうターンオーバー時間の短縮の結果、角化のための必要最少時間を維持する過程で細胞数の増加と加速された角化が引きおこされ、表皮構築の変化とcornified cell envelopeの形成異常を含む角化の変動がもたらされることが明かとなった。(J Dermatol Sci 10:200-223,1995,Br J Dermatol (in press))。
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