研究概要 |
自己免疫性甲状腺疾患の自己抗原の1つとして考えられるTSH受容体の細胞外領域に対するTSH及びTSH受容体抗体(TSAb)の親和性をみる目的で、TSH受容体細胞外領域とLH/CG細胞内領域のキメラ受容体をCHO細胞に発現させて、TSHおよびTSAbの結合性およびcAMP刺激活性を測定した。キメラ受容体はwild typeのTSH受容体と同等のTSH結合能およびTSH、TSAbによる刺激活性を示し、この結果より、TSH受容体細胞外領域がTSHおよびTSAbの高親和性結合にもっとも重要であることが推測された。 このTSH受容体細胞外領域の自己抗原としての免疫学的関与を検討する目的で、TSH受容体細胞外領域とマルトース結合蛋白(MBP)との融合蛋白を大腸菌内に発現させ、組み換えTSH受容体蛋白として精製した。精製した融合蛋白(TSHR-MBP)をH-2で系の異なる4種のマウスに免疫して、マウス甲状腺の病理学的変化、甲状腺機能、TSH受容体抗体価などを検索した結果、組織学的には特異的な甲状腺炎の所見は認めず、血中の甲状腺ホルモン(T4)値も軽度低下したが有意な変化ではなかった。さらにTSH受容体抗体(TBIAb,TSAb)も全て陰性であった。また、TSHR-MBPはTSHおよびバセドウ病患者血清いずれとも特異的結合は示さなかった。 TSH受容体の細胞外領域は、TSHおよびTSH受容体抗体が高親和性結合を示すことは確かであるが、動物モデルにおける自己免疫性甲状腺炎の病因としてTSH受容体細胞外領域の細胞性免疫への関与は強くないことが推測される。さらに自己抗原として認識されるためには、融合蛋白におけるTSH受容体の立体構造の保持が肝要であることが再認識された。
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