研究概要 |
アドレノメデュリン(AM)は、ヒト褐色細胞腫より発見された血管拡張性の新しい降圧ペプチドであり、その構造よりカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)ファミリーに属する。AMのmPNAは、副腎髄質のみならず心臓,肺,腎臓などの広範囲の組織でかなりの量の発現が見られる。AMによる新しい循環調節機序解明のため、我々は本研究において、AMの発現及び分泌調節との受容体解析を行い、以下のような成果を得た。 AMに特異的なラジオイムノアッセイ法により、AMが循環血中に存在すること、循環器疾患患者の血中AM濃度は健常者に比べて高値を示すことを明らかにした。また、培養血管内皮細胞(EC)及び血管平滑筋細胞(VSMC)が多量のAMを産生し、ラットEC及びVSMCにおける遺伝子発現は副腎よりもはるかに多いこと、さらに血管組織にもmRNA発現が見られることを明らかにした。 エンドトキシンショック誘発因子ある腫瘍壊死因子(TNF),インターロイキン-1及びリポポリサッカライドは、VSMC及びECにおけるAM産生と遺伝子発現の最も強力な刺激因子であることを明らかにした。また、エンドトキシンショックモデルとしてラットにLPS(5mg/kg)を静注すると、血中AM濃度はコントロールの20倍にも増加し、またAM遺伝子発現は、検討したほぼ全ての組織でかなりの増加が見られた。これらの結果は、AMがエンドトキシンショック時に血管拡張因子として血圧調節に関与している可能性を示すものである。 VSMC及びECにおけるAM受容体についての検討を行った。AM及びCGRPは、VSMCとECにおいて、それらの受容体を介して細胞内cAMPを増加させた。VSMCにおけるAM及びCGRPのcAMPを増加活性は、CGRPアンタゴニストであるCGRP-(8-37)によって両者とも抑制された。一方、CGRP-(8-37)は、ECにおけるCGRPの作用も抑制したが、AMのcAMP増加作用には全く影響を与えなかった。これらの知見は、AM受容体は少なくても2種類存在し、一つはAMにのみ特異的であり、もう一方はAMとCGRPの両者に共有されるものであることを示唆する。さらに、AMの作用機序の解析により、AMによる心血管系の調節にはcAMPに加えNOを介する機序の存在も示唆する結果を得た。 以上の結果は、血管のトーヌス調節において、AMによる局所調節系が存在することを示唆するものである。
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