目的:我々は乳癌の乳管内進展の病理学的な基礎資料を得るため、乳癌手術材料の厚切り全割標本から乳管内癌進展の分布を詳細に検討してきた。今回はさらに乳管内進展巣の進展範囲および到達距離と、腫瘍細胞の核形態との関係について検討した。材料:当科で乳房四分円切除術を施行した単腫瘤性の原発性乳癌20例を用いた。方法:切除標本の2mm厚連続切片の観察(サリチル酸メチル透徹法)から乳管内進展を2次元および3次元的に観察し、乳管の走行に基づいた乳管内進展巣の詳細な分布図を作成した。さらに分布図から進展距離(乳頭方向、末梢方向、側方向)および進展角度を計測し、乳管内進展範囲の評価材料とした。腫瘍細胞核形態の評価では画像処理装置を用いて浸潤部癌細胞核100個の平均核面積(MNA)、核面積標準偏差(NASD)、核形状係数(凸凹度)を計測した。結果:浸潤部癌細胞核のMNAおよびNASDと、乳管内進展距離(乳頭方向)および進展角度との間には有意に正の相関関係が認められた(P<0.05)。すなわち主腫瘍(浸潤癌巣)の癌細胞核形態から乳管内進展の程度が予想できる可能性が示唆された。我々は乳癌の乳管内進展が乳管腺葉系に沿って存在し、解剖学的知識に基づいた乳管腺葉系に沿った乳房切除の重要性を報告してきた。乳房温存療法においては手術標本を全割して行う詳細な病理学的検討が術後の治療方針の選択に必須であることは言うまでもない。しかし、全割連続切片による検討を行えない状況においては、今回得られた癌細胞核形態と乳管内進展範囲の関連性は、主腫瘍の病理学的特徴が広範な乳管内進展の一つの予測因子となることを証明するものであり、乳房温存療法における切除範囲の決定や術後の治療方針の決定に重要な情報であるといえる。
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