研究概要 |
本年度は早期から高度進行癌にいたる様々の進行度の胆嚢癌ならびに胆管癌の分子生物学的特性を総括的に研究し,若干の興味ある知見を得ることができた. 早期胆嚢癌の細胞増殖能:癌深達度がpmまでにとどまる早期胆嚢癌34例を集計し,細胞増殖能の指標であるMIB‐1標識能(L.I)ならびに細胞増殖との関連性の示唆される癌抑制遺伝子p53を検索し,深達度ss以上の進行胆嚢癌と対比することによって,早期胆嚢癌の細胞動態について検討を加えた.MIB‐1のL.Iの平均値はm 16.9±6.2%,pm 25.7±20.0%,ss以上40.8±20.4%と深達度が進むにつれて高値を呈したが,m,pm癌でもL.I 30%以上の高度増殖能を示したものが20%に認められた.また,p53の陽性率はss以上50%,pm 33.3%,m 28.6%であり,早期癌の段階からすでに癌抑制遺伝子異常が発生していることが明らかになった. 進行胆嚢癌の予後因子:進行胆嚢癌切除例の種々の病理組織学的ならびに分子生物学的因子を解析し,予後との関連性を検討した結果,長期生存例はリンパ節転移がなく,かつ癌細胞核DNA量がdiploid,癌遺伝子k‐rasの発現陰性例に限られていた.リンパ節転移の有無や癌細胞核DNA量は術中迅速診による検索が可能なことから,現在,術式選択のためのプロトコールを作成し,症例を集積中である. 胆内胆管癌と肝門部胆管癌の分子生物学的動態の比較:肝内胆管癌(CCC)と肝門部胆管癌(HBC)は同じく胆道上皮を発生母地としているが,進展様式や治療成績は大きく異なっている.これら両者の分子生物学的因子を対比すると,p53の陽性率(CCC 72.7% vs HBC 32.1%)ならびに癌細胞核DNA量がAneuploidの頻度(CCC 72.7% vs HBC 32.1%)に有意差が認められた.現在,さらにbcl‐2ならびにcyclinDを検索し,これら両者の発癌・進展過程の相違について検討中である.
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