研究概要 |
[目的]本研究は,噴門部機能をVector VolumeとYield Pressureにより行い,逆流性食道炎の発生機序と外科的噴門部修復術の有用性を分析することにある。 [対象と方法]これまでに健常者3例と十二指腸潰瘍症例3例の術前後(選択的近位迷走神経切離術+前壁半周性噴門形成術)ならびに逆流性食道炎2例の術前後(全周性噴門形成術)において,被検者本人(保護者)の承諾の上で,下記方法にて測定を行った。先端より5cmの位置に水平8方向に内圧測定用の側孔を設けたインフュージョン式内圧力カテーテルを挿入し,1cm/秒のmotorized pull through法に呼気末期(V_1),吸気末期(V_2)にそれぞれ3回以上測定した。測定された8方向の圧と高圧帯の長さよりVector Volumeは積算される。そして約1000mlの空気を胃内に送気した後に同様の測定(V_3,V_4)を行った。そして,胃内への送気を行う前の胃内圧(G_1)と送気後胃伸展時における胃内圧(G_2)を求め,両者の差をYield Pressureとした。また症例により,承諾の上で,胃液検査,24時間pHモニタリング,食道内圧検査を施行した。 [成績]健常者ならびに食道裂孔ヘルニアを認めない十二指腸潰瘍症例のV_1は80-200cm^3であったが,食道裂孔ヘルニアを伴う症例,逆流性食道炎症例では,17-40cm^3と低値を示していた。そして,前壁噴門形成術,全周性噴門形成術いずれの術後もV_1の増加が認められたが,両術式は,V_2の形態に違いとして現れた。また全周性の噴門形成術の1例は,70cm^3程度の増加に留まり,自覚症状は消失したが,24時間食道内pHモニタリングでは,軽度の食道内逆流が認められた。胃伸展後のVector Volumeは,多くの症例で低下していた。Vector Volumeによる評価は,噴門部における通過ならびに逆流防止機能の判定ならびに噴門部修復手術の術式選択に関し有用な検査法になると考えられる。
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