研究概要 |
肺扁平上皮癌の発癌過程における多段階の遺伝子変化を検討する目的で,1)前癌病変である異型成,2)早期肺扁平上皮癌,さらに3)正常部位にも高頻度で遺伝子異常が存在する可能性が高いと推定される多発肺癌発生例,の3群に対して,(a)免疫組織化学法による蛋白の発現と,(b)PCR-SSCP法による遺伝子変化について検討した。 酵素抗体法により検討した項目はp53,c-erbB2,ras,Estrogen-receptor,PDGFR,Ki-67,PCNA,bcl-2,アポタックで,また,PCR-SSCP法では,p53の遺伝子変異をエクソン5から9までの領域で検討した。癌化および病変の進展に伴うp53の変化を表に示す。 また,同一症例において,前癌病変から癌化に至る過程を経時的に観察しえた4例で,p53の異常を経時的に比較した。その結果,全経過を通してp53の異常は4例中3例にみられたが,うち1例では,癌化に伴いp53の異常が消失していた。p53の異常が関与しないクローンの増殖,癌化のプロセスも検討する必要があると考えられた。 PCR-SSCP法による検討では,X線有所見例9病変中2病変に,X線無所見例8病変中2病変に変異を認めた。変異のみられた部位はX線有所見例では2例ともエクソン7に,X線無所見例ではエクソン5から6とエクソン7に各々1例ずつみられた。平成6年度の検討で免疫組織化学的手法によるp53の異常の検討はほぼ終了した。現在は,初期の発癌過程における増殖動態やアポトーシスの発現,SSCPによる遺伝子変異の知見を集積中であり,最終的には初期の発癌過程における塩基配列変化を明らかにする予定である。
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