研究概要 |
【目的】肺癌症例に対し術前に化学療法が近年次第におこなわれるようになったが、抗癌剤の気管支形成術吻合部における創傷治癒に及ぼす影響については現在のところ報告されていない。今回我々はこれらのことを明かにするための実験的検討を行った。【方法】8週齢のWister ratにそれぞれCDDP 6mg/kg,ADM 6mg/kgを尾静脈より静注し、抗癌剤投与4週間後に全麻下で皮切を4cm、左第四肋間で開胸し、左主気管支を切断、8-0 prolineで端々吻合する手術を行った。術後7日目と28日目にそれぞれ犠牲死させた。気管より50ml/hrの速度で生食を注入、左主気管支の吻合部より末梢と右主気管支をクランプしbursting pressureを測定、またHydroxyprolinの定量及び病理組織学的検討を行い、吻合部の創傷治癒の評価を行った。対照群はChemotherapy非施行で同様の気管支吻合をおこなったものとした。bursting pressureは、対照群が術後7日目で平均766mHgと正常の気管支耐圧とほぼ同等またはそれ以上を示し、ADM投与群の術後7日目も平均890mHgと治癒は良好であった。一方CDDP投与群では平均651mHgとやや低下傾向がみられたが、術後28日目には平均917mHgと上昇を示していた。気管支吻合部のHydroxyprolin量は術後7日目を比較すると気管支乾燥重量1mgあたり対照群は平均180nmol/mg、ADM群173nmol/mg、CDDP群185nmol/mgとほとんど差を認めなかった。【結論】術後7日目でCDDP投与群に軽度創傷治癒の遅延が認められたが、縫合不全の原因となるほどとは言えず、抗癌剤投与後4週間を経て手術を行った場合、抗癌剤の気管支吻合部創傷治癒に対する影響はほとんどないと考えられた。
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