研究概要 |
【目的】肺癌症例に対し術前に化学療法が近年次第におこなわれるようになったが、抗癌剤の気管支形成術吻合部における創傷治癒に及ぼす影響については現在のところ報告されていない。今回我々はこれらのことを明かにするためラットを用いて実験的検討を行った。平成6年度は抗癌剤の単剤投与、平成7年度は多剤併用療法について検討し、平成8年度は創傷治癒遅延の原因解明に関する検討を行った。【結果】吻合部の創傷治癒の評価は、抗張力としてBursting Pressure(BP)を測定、また組織中のコラーゲンの指標となるHydroxyproline(HP)の含有量及び免疫染色による病理組織学的検討で行った。単剤投与群ではCDDP、ADMにおいては全く創傷治癒遅延見られず、CPA投与群の術前期間が3日の群のみにみられ、また多剤併用群においてはPVP療法(CDDP+VP16)には変化は見られなかったがCAV療法(CPA+ADM+VCR)群の術前期間が3日の群のみにみられた。何れの投与群にも術前期間が7日の群では遅延は見られず、一定の回復期間があれば治癒に影響がないことが証明された。また、白血球減少の激しいCPA,CAV投与群においてのみ術前期間が3日の場合に遅延が見られ、組織学的にも細胞浸潤、特にマクロファージの浸潤が少ないことから、白血球減少特に単球減少が創傷治癒遅延に関係すると考えた。これらを証明するために平成8年、各種モノクロナール抗体を投与し単球及びTリンパ球を抑制したモデルを作成した。その結果、単球を抑制した群では創傷治癒は著しく抑制され、マクロファージの浸潤が少ないCPA,CAV投与群は当然治癒の遅延が出現すると考えられた。【結語】術前化学療法は一定の期間をおけば気管支吻合部創傷治癒に影響を及ぼさない。期間が短い場合では白血球減少、特に単球の減少は大きな危険因子である。
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