これまでの基礎研究から、MRP-1はp53・RB遺伝子らの癌抑制遺伝子と異なり、癌細胞のprogressionの最終段階に関連しているものと思われる。すなわち、転移能力を備える癌細胞の出現と共にMRP-1遺伝子の変化、喪失等が起こってくる可能性が強く示唆された。そこで、乳癌患者の症例が多いことから、先ずpilot studyとして乳癌切除標本を用い、mRNAを抽出した。そして、そのcDNAを合成、RT-PCRを行い遺伝子レベルでの検討を行った。同時に蛋白レベルで、western blottingと免疫組織染色を行い、これらの比較検討を行って、MRP-1の消失・減弱と予後との関連を研究した。その結果、乳癌患者では、蛋白レベルで明らかに原発巣に比べ転移部での正常MRP-1と考えられる25Kのバンドが減少していた。遺伝子レベルでもmRNAの減少が見られた。また、1990年6月から1992年12月までの143例の乳癌患者を対象としてwestern blottingと免疫組織染色を行い、健存率を比較してみると、MRP-1非減弱群は82.6%であるのに対し、MRP-1減弱群は50.2%と明らかに予後が悪いのが判明した(p<0.001)。一方生存率で比較して見たところ、非減弱群は96.0%であるのに対し、減弱群は73.1%と有意に予後不良であった(p<0.001)。これからは、肺癌患者でも同様にMRP-1の発現と予後との関連について研究していく予定である。又、RT-PCR産物より、全cDNAシークエンスを行い、点突然変異と予後との関連も検討していく。加えて、これまで凍結保存されている切除標本と同一患者の転移再発部位の切除標本を検討し、MRP-1の変異を調べる。
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