脊髄空洞症は、以前は稀で治療も困難な疾患とみなされてきたが、近年の画像診断の進歩と顕微鏡下手術の発達により、この疾患が決して稀なものではなく、外科治療の対象となることがわかってきている。脊髄空洞症の発生病態に関しては種々の説が提唱されているが、今なお確立されていない。我々は現在までに140例を越える脊髄空洞症患者の外科治療を行い、その成因に関する臨床研究と手術方法の開発を行ってきた。 実験的研究としては、脊髄損傷後に発生する外傷性脊髄空洞症に関して、兎を使用した動物実験により、外傷後では損傷部の癒着性クモ膜炎による髄液の循環障害に加えて、脊髄自体の血流障害が加わって空洞が発生することを示した。しかしながら、最も頻度の高いキアリ奇形に伴う脊髄空洞症に関しては、空洞発生の機序については様々な仮説がたてられているものの、適切な実験モデルがなく、ラットを使用しバルーンカテーテルを用いてキアリ奇形での小脳扁桃の下垂と類似した状態を作成し組織を検討している。 臨床研究としてはpre-saturation bandによるcine-MRIを駆使することにより、非侵襲的に患者の髄液循環動態の定量的解析を行い、脊髄空洞症の病態に頭蓋頚椎移行部での髄液動態の異常が深く関与していることを明らかにした。また我々が、独自に開発した空洞-くも膜下腔シャント用チューブ(サッポロシャント)の使用に関してシャント不全を起こさぬような工夫を一層発展させた。又、キアリ奇形に合併した脊髄空洞症の疫学調査の継続を行い、難産、鉗子分娩の有無、新生児仮死、出産時損傷の頻度が脊髄空洞症の患者では有為に多いことを明らかにしている。
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