脳動静脈奇形(arterio-venous malformation:AVM)の摘出術中・術後に、脳浮腫や脳内出血などの致命的な合併症をきたす症例が存在するが、この病態は未だ解明されていない。動物実験のモデルとして、頚部における動静脈短絡モデルが報告されているが、実際のAVMとは循環動態が異なり、適切なモデルではないとの批判が多い。そこで我々は大腿静脈をグラフトとして、脳表の動脈と上矢状静脈洞間に血管吻合することで頭蓋内に動静脈シャントを作成し、盗血による局所低潅流状態をきたすモデルを作成した。本モデルの循環動態を検討すると、シャントを作成した中大脳動脈領域ではシャント量の増加に伴い局所の脳血流は低下したが、前大脳動脈領域では明らかな相関を認めなかった。すなわち脳内に局所的に低潅流領域が出現し、これまでの大脳半球全体での低潅流モデルとは異なり、よりAVMの循環動態に近いモデルであった。そして、この低潅流領域はシャント閉鎖により消失した。またこのモデルの低潅流領域では二酸化炭素に対する血管反応性が低下していることが明らかとなり、これまでの臨床の場で述べられている循環動態とも近似していた。 本モデルによる慢性実験により動静脈シャント下での脳循環動態、動静脈シャント閉塞時の局所脳循環動態を明らかにすることで、術中・術後の重大な合併症である脳浮腫や出血をきたす機序を解明し得るものと思われる。しかし、本モデルはあくまで動静脈短絡のモデルであり、脳動静脈奇形とは本質的に異なるものと思われる。今後この相違点を明らかにしていかなければならないと考えている。
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