研究概要 |
人工心肺下で肺血流を途絶させた状況下で施行される胸部大動脈瘤および開心手術は、換気虚脱に人工心肺終了後の再灌流障害が複合し、肺のガス交換能低下をきたしうる。術後に長期間の人工呼吸を必要とするばかりではなく、患者の生命予後をも左右する。さらに近年、集中治療室入室期間を短縮することが求められており、術後呼吸管理の観点からも胸部大動脈瘤および開心手術が呼吸機能および他臓器機能に及ぼす影響を検討することは重要である。本研究では人工心肺下に施行された胸部大動脈瘤と開心術症例における接着分子の変動を検討することを目的とした。術後呼吸不全発生例が少なく、呼吸機能と接着分子の関係についての検討は少数例のみでしかなしえなかったが、人工心肺時に用いる麻酔薬が胸部大動脈瘤および開心手術の周術期の後の呼吸機能状態も含めた生体機能にどのような影響を及ぼしうるかも同時に検討した。人工心肺後に発生しうる呼吸機能低下や合併症をきたす原因について推測できうると考えられる。さらに、臓器移植モデルと再灌流モデルを使用して、好中球と血管内皮との接着が心臓の再灌流障害を生ずる上で重要な役割を果たしていることを接着分子の分析より明らかなことを示した。 1.人工心肺下に施行された解離性胸部大動脈瘤および他の開心手術の周術期において以下のことが観察された1)血中Tumor necr osis Factor(TNF)値は術後呼吸不全を発症しなかった患者と差は認められなかった。2)肺胞洗浄液中のTumor necr osis Factor(TNF)値は術後呼吸不全を発症しなかった患者に比し有意に上昇していた。3)肺胞洗浄液中の好中球にLFA-1の発現がみられた。4)人工心肺回路より投与した吸入麻酔薬のsevofl ur aneは腎機能低下患者においてdose-dependentに血中および尿中無機フッ素濃度を有意に増加させたが、周術期の腎機能ひいては呼吸機能を悪化させなかった。5)人工心肺回路より投与した吸入麻酔薬のsevofl ur ane,i sofl ur aneおよびenflur aneはいずれも血中epi nephr ine,nor epi nephr ineの増加をdose-dependentに抑制した。2.ラット心臓での再潅流モデルにおいて、LFA/ICAM-1を介した経路が心筋の再潅流障害発生に関与している。
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