研究課題/領域番号 |
06454444
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
石川 敏三 山口大学, 医学部, 助手 (90034991)
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研究分担者 |
中木村 和彦 山口大学, 医学部附属病院, 講師 (50180261)
前川 剛志 山口大学, 医学部, 教授 (60034972)
坂部 武史 山口大学, 医学部, 教授 (40035225)
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キーワード | 痛覚過敏 / 触覚過敏 / 細胞内情報伝達系 / Cキナーゼ / 細胞骨格蛋白 / 神経栄養因子 / シナプス可塑性 / 脱抑制機構 |
研究概要 |
外傷、手術その他さまざまな要因による末梢神経・組織障害後に誘発される疼痛は治療に難渋する病態で、発生機序の解明とそれに基づく治療法の確立が急務とされる。末梢神経・組織損傷後、求心性C線維を介し脊髄後角でglutamate(Glu)、substance P(SP)などの過剰放出がみられ、それによる細胞内Ca増加に起因したさまざまな生化学的カスケードによって選択的細胞が傷害されることが考えられるが、まだ明らかでない。本研究は、傷害発生過程における化学的カスケードを明らかにし、適確な治療法について理論的基盤を得ることを目的とした。今までに、(1)痛覚過敏モデル(末梢炎症性組織傷害:Formalin(For)あるいはmustardoil(MO)末梢組織内注入)における脊髄化学的シナプス伝達様式(興奮性アミノ酸放出およびPKC活性)と、それに続く細胞骨格蛋白(MAP2)、および神経成長因子(NGF)への連鎖反応(免疫組織化学)について、また(2)触覚過敏(Allodynia)モデルにおけるglycine、CABA_A阻害薬のクモ膜下腔内注入後のGlu放出と触覚過敏行動について、それぞれ検討した。その結果、(1)ForあるいはMO注入後、flinching動作(痛み行動)の持続的増加が起き、これはオピオイド、α_2アゴニスト、NMDAアンタゴニスト、アデノシンA_1アゴニスト、NOS阻害薬で抑制され、また脊髄I-IIおよびV層で局所ブドウ糖代謝が亢進し、I-II層ではPKC結合活性の増加に伴い、MAP2免疫活性低下とNGF免疫活性(運動ニューロン)亢進がみられた。このことは、脊髄におけるsensitization(痛覚過敏)には、後角シナプスでGlu、SP放出増加→Cai^<++>上昇→細胞内蛋白キナーゼ活性化(蛋白リン酸化促進)→MAP2傷害→NGF促進という一連の反応が関与することが示唆される。また、Allodynia発生機序におけるglycine系抑制(脱制御)機構は、GABA_A系抑制とは異なり、シナプス前のglutamate放出抑制は関与せず、主に後細胞の興奮でもたらされる可能性が判明し、Allodynia発現における脊髄後角シナプス伝達の多様な機構の存在が示唆される。 以上のことから、末梢組織・神経傷害における脊髄後角での化学的シナプス伝達、すなわちそれに連鎖する蛋白リン酸化反応を介するニューロンの傷害と修復(シナプスの可塑性)を含めた多様な機構の存在が明かとなった。今後、脊髄sensitizationにおけるNGFの促進の果たす役割、さらにはモノクローナル抗体投与、蛋白キナーゼ阻害薬投与による効果を検討し、合理的治療法に向けて検討を加えたい。
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