脳内酸素環境は、脳への酸素供給量と脳酸素消費量のバランスにより調整されている。酸素供給=脳血流量×動脈血酸素含量で規定されるが、血中酸素含量が低下した時に脳血流量は代償的に増加してくる。今回は脳血流量を非侵襲的に測定できるTCD法により脳循環動態を連続的にモニターする研究を行った。対象は雑種成犬として中大脳動脈を直視下におく操作(頬骨弓を切除して側頭骨に頭蓋内通過窓を開通)を行う。この方法でTCD法による動物での測定法を完成させて、酸素欠乏、さらにハーバード人工呼吸器で過換気に設定しCO_2吸入を行ってCO_2分圧を増減させた時の変化を遺跡した。脳血管は血中CO_2分圧に敏感に反応することは知られているが、血管収縮が過換気で、血管拡張がCO_2蓄積で認められた。TCDは波形の分析により血流速度の増減と血管狭窄の有無が区別できるが、熱希釈法により同時測定した心拍出量の増減との対比を行った。心拍出量の体内での血流分布からみてCO_2増減による脳血流の増減よりも血管収縮、拡張の因子が大きいことを定性的に解析した。 脳酸素欠乏に対して脳血管は拡張することをTCD法により確認した。この酸素欠乏の度合は吸気O_2濃度を段階的に下降させて作成した。酸素欠乏の持続時間によりこのTCDによる脳血流速度は変動してくる傾向が認められた。脳血流の自己調節機能が血圧だけでなくO_2欠乏に対する防御機転として存在するが、これに限界があることを示唆する所見である。さらに我々は近赤外線分析により脳内酸素環境の測定を行った。これとTCDを対比させての成績は臨床に於ける応用面からも興味が持てると期待した。未だ現時点では両者を同じ動物で同時に測定する点の手技上の問題点があり、別々に検討するシリーズで両者の相関を行っている段階である。
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