研究概要 |
(1)前年度クローニングしたブタSPMIのcDNAについて、その後の研究を発展させて、純度の高いブタ及びヒトSPMI蛋白を得るために、DNA配列をもとに大腸菌でのrecombinant SPMI発現を試みた。SPMI蛋白の発現には成功したが発現蛋白には極弱いSPMI活性しか見られず、原因としてrecombinant SPMIの立体構造や糖鎖の修飾がnativeなSPMIと異なるためと推察した。今後はbaculo virusによるnativeな発現系の確立をめざす。 (2)SPMIの精子運動抑制機序についてSPMIが精子細胞膜を通過し得るかを免疫電顕法にて観察した。その結果SPMIは精子細胞膜表面に付着し精子細胞内には観察されなかった。これは前年度得られたSPMI蛋白は精子細胞膜に付着し、洗浄により一部の精子が運動を再開するとの所見と一致する。以上よりSPMIの精子運動抑制機序は、SPMIが精子細胞膜に付着し精子細胞膜からのsecond messengerがダイニン腕に存在するdynein ATPaseの活性を阻害し、運動が抑制されると解釈される。このsecond messengerが何物であるのかは、今後の研究に託したい。 (3)ヒトSPMIを精子無力症の遺伝子診断へ応用する可能性を検討するため、ヒトSPMIの前駆物質であるSemenogelin-I,IIについて不妊症患者DNAの変異を検索した。不妊症患者および児を持つ正常者から血液中のDNAを抽出,PCR法にてSemenogelin DNAの各exonを増幅した。その結果Semenogelin-Iの第2exonについて2名の患者と1名の正常者に180bpにわたるDNAの欠落部位を認めた。うち1名の患者の両親を調べ、欠落のあるDNAは母親から遺伝したことを明らかにした。しかし現在のところ、この遺伝子の変異が精子無力症の原因と言うには至らなかった。
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