悪性疾患手術時に、病理検索目的にて採取された卵巣標本を用いた本研究を行った。対象は正常卵巣および多嚢胞性卵巣で、その卵巣機能を調節する種々の因子を分子生物学的な手法により解明した。(1)正常卵巣では、一次卵胞でsteroid酵素の転写調節因子であるAd4BPが発現するとともに、steroid hormone合成の第一段階であるC17αの発現とandrogen receptorの局在が開始した。二次卵胞では、C17α、P450sccおいて3βHSDが莢膜細胞に発現し、ardrogenまでの代謝経路が完成する。成熟卵胞におよびは、anomatase estrogen receptorが発現し、この機序が最終的な卵胞の発育に重要であることが判明した。成長因子に関しては、二次卵胞以降の莢膜細胞にTGFαが発現するとももにEGFRが顆粒膜細胞に発現し、これら成長因子によるparacrine調節機構が明らかになった。卵胞発育過程における細胞増殖能、卵胞機能にかかわるマクロファージの関与の研究では、卵胞には活発な増殖能が卵胞期・黄体期を問わず認められ、次周期の排卵される卵胞は黄体期に準備されていること、さらに機能低下卵胞では増殖能が消失することが判明した。また、これら卵巣機能には、マクロファージが関与していることも明らかになった。(2)排卵障害卵巣(多嚢胞性卵巣)では、aromataseとestrogen receptorの発現が認められず、排卵障害の一因が明らかになった。しかし、増殖能を有している卵胞数は多く、卵巣過剰刺激症状の発現原因が解明された。また、臨床的な嚢胞蒸散治療により、過剰刺激症状出現率が減少し、基礎的研究の成果が臨床的に確認された。 以上の研究により、卵巣機能調節には種々の因子が密接に関与するともとに、卵巣の機能異常や機能低下はこれら因子の消長が原因であることが示唆された。この研究成果は、臨床的な排卵障害治療上有意義であると考えられる。一方、本研究では加齢との関連性については十分解明されなかった。しかし、本研究のような分子生物学的手法は、卵巣の加齢減少を解明する鍵になると考えられた。
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