当該年度の研究は、昨年度に明らかにした、妊娠中の母体末梢血中に生理的に存在する胎児有核細胞の存在比率をはじめとする基礎的事項、ならびにfluorescence in situ hybridization(FISH)を用いることで母体末梢血中胎児有核細胞から胎児の性別診断が可能であることを示す研究結果をもとに、それらの細胞を用いた新しい出生前診断法の開発を行うことを目的とした。 昨年度までに我々が行ってきた一連の研究成果から、胎児有核細胞を有効に分離・濃縮することができるか否かが本診断法確立の鍵であると考えられた。そこで、検体は妊娠初期の母体末梢血とし、fluorescence-activated cell sorter(FACS)を用いて、妊娠初期に特に母体末梢血中に出現する有核赤血球の分離を行った。そして、分離した有核赤血球中からFISHを用いてY染色体特異的DNAの検出を行うことで、胎児の性別診断が可能であるかを検討した。その結果、まず第一にこの方法で有核赤血球がある程度選択されて回収できることが、形態学的にも証明できた。そして、男児妊娠中の妊婦の場合には、それらの細胞の核内にY染色体特異的塩基配列が存在することをFISHにて明瞭に示すことができた。以上より、FACSを用いて母体末梢血中胎児有核細胞を有効に分離・濃縮できる可能性が示唆された。ただし、そのFACSの条件設定等には改善の余地が多く、より精度を高め臨床応用可能な診断法とすべく、今後研究を続けていきたいと考えている。 以上のように、当該年度は概ね当初の計画どおりに進行することができた。
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