卵胞発育の調節因子として各種の卵胞内局所因子が明らかにされつつあるが、卵胞成熟機構にはさらに本質的な未解決の問題点が存在すると考えられる。顆粒膜細胞におけるアポトーシスとその発現調節機構の解析は、卵胞発育の局所因子としてその機序の根本に迫るものであり、卵巣生理学上の重要な知見を得られると同時に、排卵障害などの臨床病態の解明にも役立つものと思われる。さらに細胞内局所物質の作用機序の検討にも有用であろうと推察され得る。 そこで、体外受精時に得られた顆粒膜細胞を培養し、アポトーシスの有無をTUNEL法にて検討したが、症例毎にアポトーシス(+)のものと、アポトーシス(-)のものが存在し、アポトーシス(-)のものにおいては、培養時間経過においても、hCG添加においても、アポトーシス(-)のままで、細胞死の調節機構は培養系においては明らかにできなかった。これらの結果からは、顆粒膜・黄体細胞におけるアポトーシスによる細胞代謝調節機構の存在は疑問視された。そこで、顆粒膜細胞で合成・分泌される卵成熟のための他の調節因子であるインヒビンとアクチビンに着目し、そのサブユニットの発現調節機構を検討した。ラットの顆粒膜細胞培養系を用いた実験により、エストロゲンが各サブユニットの発現の調節に直接作用を有することが明らかとなった。また、子宮内膜および子宮内膜症組織におけるアポトーシスの意義を、TUNEL法を用い検討した。その結果、卵巣性子宮内膜症では常にアポトーシス(+)であり、正所性子宮内膜および子宮腺筋症組織では、アポトーシス(+)のものと、アポトーシス(-)のものが不規則に存在した。また、同時に免疫染色法で同定したアポトーシス関連抗原の一つであるbcl-2蛋白は、卵巣性子宮内膜症ではぼすべてに陰性であったが、正所性子宮内膜および子宮腺筋症組織では、増殖期で陽性、分泌期で陰性と性周期による明らかな差異が認められた。
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