各種婦人科腫瘍について、多段階発癌に関する遺伝子群、癌原遺伝子、癌抑制遺伝子群の変異を検索し、全症例の約80%にこれら遺伝子に何等かの変異が存在する事を明らかにした。 これら事実を踏まえ、p53の突然変異株に、正常p53遺伝子を含むベクターを作製し、細胞株に感染させ、p53の強制発現を促すとIn vivo及びIn vitroにおいて変異株の細胞増殖が抑制されることを見いだしている。しかし、p53遺伝子変異などの単独遺伝子変異は30%と低率であるため、単一遺伝子導入による遺伝子治療の効果は臨床的には実現の可能性は低いと考えられた。 癌に普遍的に見られる標的に対する遺伝子治療が望まれる。 最近、ほとんど全ての癌に共通してみられるテロメラーゼの活性化が細胞の不死化や発癌に重要な役割をなす事が判明した。テロメアは染色体末端に存在する数キロbaseに及ぶ繰り返し配列(TTAGGG)nにより構成される。テロメア繰り返し配列はDNAの分解や再構成、欠失などからDNA末端を保護すると考えられている。しかし、DNAの複製の際に末端のRNAprimerの結合部は再合成出来ないので、細胞分裂毎にテロメアは短縮して行く。そして、テロメアを最伸長する機構が働かない限り細胞は老化し細胞死を迎える。テロメラーゼはテロメアを伸長させるRNA蛋白で、正常細胞では不活化されている。テロメラーゼの発現はテロメアの再伸長を介して細胞を不死化させると考えられている。実際、ヒトの多種類の癌で90%以上の頻度でテロメラーゼの活性化が報告されている。我々は世界に先駆けテロメラーゼ活性を簡便且つ迅速に行うnon-RI TRAP assayを開発した。我々の検討は正常組織には認めないが、子宮体癌で約90%にテロメラーゼ活性の上昇を認めた。テロメラーゼの活性化は臓器や癌の種類に無関係に、一律、且つ高率に認められている。 このテロメラーゼを標的とした遺伝子治療の可能性が示された。
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