研究概要 |
人の音声言語行動は言語情報の伝達のみならず感情や情緒、美的情報の伝達を行っていることは経験的に知られている。従来内省的に記述されているため表現法が発声者により異なり普遍的な議論が困難であった。近年情報科学の進歩と社会的な要求によって、感性情報の伝達についての研究はいくつか行われている。しかしその生理的な研究はほとんど行われていない。初年度においては発声法の観察の基礎となる声帯振動の観測のため超高速声帯振動観測装置の整備を行い、それを用いて病的な声帯振動を記録した。さらに声の質の評価として従来病的音声の評価に用いられているGRBAS評価法の妥当性と普遍性を検討するため会話音声と持続母音発声を対象とした検討を行った。 本年度においては、感情の伝達方法の一つとして歌唱法を取り上げ、代表的な感情である、Happiness,Anger,Sadness,Fearを伝達するために無意味な旋律を単一の母音で歌った際に歌い手の意図が聴取者にどのようにつたわるかを検討した。その結果ある程度音響的なレベルで意図が伝達されること、伝達の程度とある種の音響的パラメーターの間には特定の関連があることが、認められ、発声法の違いと感情表現には関係があることが示唆された。発声法を声帯振動の面から考察するために、電気グロットグラムを用いた。 音声治療についての生理学的研究をPushing methodについて行った。上肢の運動にともなった喉頭の動態を声門下圧の変動、電気グロットグラムの面から捕え、この音声治療が喉頭麻痺や各種声門閉鎖不全の治療に有効であることを示した。発声治療の生理学的裏付けとしては重要な知見である。今後の他の発声治療法についての研究が治療法の選択を有効に行うことにつながることが強く示唆された。
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