研究概要 |
Epstein-Barrウイルスにコードされる核内小RNA(EBV-encoded small nuclear RNAs,EBERs)はポリA鎖のない短いRNAで、EBER-1とEBER-2の2種類があり、それぞれ166、および172ヌクレオチドからなる。今回このうちEBER-1に対する生体内局所ハイブリダイゼーション(in situ hybridization,ISH)を行い、上咽頭癌(NPC)組織、頸部リンパ節のパラフィン切片からの検出率、およびその組織内での局在、血清抗EBV抗体価との関連について検討した。またNPC発癌におけるその意義を検討するためにEBV増殖サイクルで発現される早期抗原(early antigen,EA)のR型、EA-Rの一部であるBHLFI遺伝子発現蛋白も同様に検討した。対象は病理組織学的にNPCと診断された上咽頭及び頸部リンパ節の生検組織‐‐世界保健機構WHO分類のII型(非角化型癌)9例、III型(未分化型癌)6例‐‐であり、このうち13例にEBER-1の発現を認めた。頸部転移性リンパ節では9例のうち7例に原発巣と同様に腫瘍細胞の核に一致して陽性であった。なお血清抗EBV抗体価は1例を除いてすべて抗VCA-IgA抗体価,抗EA-IgA抗体価陽性を示した。一方、BHLF1発現は原発巣15例の4例に、頸部転移リンパ節9例中3例に認めた。 以上の結果から、NPCにおいては、EBVが複製サイクルにあるよりは潜伏感染状態にあることが密接に関与していることが明らかとなった。しかし低頻度ながら複製サイクルのEBVが必ず存在し、早期抗原が発現していることは、早期蛋白に細胞融合能があることと考え併せて、EBV感染レセプター陰性細胞へのEBV遺伝子の移行機序の1つに、EBV感染レセプター陽性細胞(リンパ球)との細胞融合の可能性を示唆するものであり、NPC発癌の初期過程におけるEBV遺伝子の役割を考える上で貴重な結果であった。
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