研究概要 |
EBウイルス(EBV)が密接に関与している上咽頭癌(NPC)において、今回は、EBV遺伝子と宿主細胞側の遺伝子発現の相互関係から上咽頭癌発生機序を考察した。つまりNPC組織を用いて、EBERs(EBV-encorded small nuclear RNA),BHLF1(diffuse early antigens)は、in situ hybridization法にて,LMP1,EBNA1,EBNA2,BZLF1,p53,bc12は免疫組織化学的手法を用いて調べた。その結果、EBERs-1は非角化型癌(WHO-2)、未分化型癌(WHO-3)で高率(90%以上)に確認され、EBV-抗体価陽性率と明らかな相関関係が証明できた。しかし、LMP1は約35%、EBNA2は陰性でNPCの表現型はLMP1(+/-),EBNA2(-)で、いわゆるLatencyクラス2に分類された。一方アポトーシスに対して抑制的であるbcl-2と逆に促進的である野性型p53の発現はそれぞれ約90%、60%と高率であったが、両者間には発現率、染色強度において統計的に有為な相関関係は認められなかった。しかし、同一標本における両者の二重染色で同一領域で陽性細胞が混在することが特徴的であった。このことはp53蛋白による癌抑制作用がbcl-2により抑制される可能性が示唆された。ところで、EBウイルス転写活性化に必要なBZLF1遺伝子により発現されるZ蛋白やウイルス複製に必要な早期蛋白をコードするBHLF1蛋白の発現率はそれぞれ約40%、10%であり、NPCでは低率でもウイルス産生が生じていることが明らかになった。しかし、EBV抗体価陽性NPC患者の100%がEBERS陽性者であることと大きく異なり、NPCにおける高いEBV抗体価陽性率とは相反するものであった。そこでEBウイルス産生抑制機序の存在を考えZ蛋白とp53との発現関係を統計的に検討したところ、両者は有意に相関していた。つまり、両者蛋白の結合がそれぞれの機能を抑制しあい発癌に結びつくものと考えられた。
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