今後ますます社会の高齢化がすすむことで、味覚障害は感覚器障害の重要な一部を占めるようになるであろうことが予想される。しかしながらこの方面の研究は、聴器あるいは視器などの他の感覚器領域に比べて、著しく不足しているのが現状である。 今回主に検討を行ったのは、高齢者の味覚障害の原因として圧倒的に多い、薬剤牲味覚障害に関してである。薬剤牲味覚障害の原因は、薬剤のもつ金属キレート作用による亜鉛代謝異常であると推測されてきた。今回、金属キレート作用をもつ抗生剤としてよく知られるテトラサイクリンを用いて、その薬剤牲味覚障害のモデル動物を作製した。この方面の研究は国内外ともに未開拓の分野であり、特にこのようなin-vivoの実験は報告されていない。作製した味覚障害動物を用いて、茸状乳頭の変化を走査電顕にて検討した。味覚障害の動物モデルとしては以前から亜鉛欠乏ラットが知られており、その走査電顕所見と対比した。茸状乳頭の味孔の変化は亜鉛欠乏性ラットと共通の所見が多かったが、亜鉛欠乏ラットに比べ、より軽いものであった。現在透過電顕にて検討を追加している。また口腔の局所疾患による味覚障害も高齢者で有意に増加する。口腔の炎症性変化による舌の変化を検討するため、舌深部の炎症性変化とそれにともなう舌表層の変化に関しても検討を行った。舌深部の炎症は舌表層の所見に有意の変化を生じさせた。その部位は舌の前方部分が顕著であり、糸状乳頭の数を減少させ、かつその長さを増加させた。この動物モデルの味覚機能と味乳頭の変化に関して現在検討中である。 今後聴器障害や視器障害と同様に、重要な感覚器障害である味覚障害に関する基礎的研究が十分顧みられるべきである。このことは、特にきたるべき高齢化社会におけるquality of lifeの面からも、重要なことであろう。
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