研究概要 |
エナメル上皮腫,悪性エナメル上皮腫における細胞増殖能,及び癌遺伝子産物,癌抑制遺伝子産物に関する免疫組織化学的検索を施行し,以下の結論を得た。 1.エナメル上皮腫の主要な組織型である濾胞型エナメル上皮腫と叢状型エナメル上皮腫との間で,PCNA陽性細胞の分布状態は異なっていたが,PCNA陽性率の差異は認めなかった。 2.エナメル上皮腫再発例のPCNA陽性率はその初発時症例群に比べ有意に高値を示し,エナメル上皮腫再発時における腫瘍細胞の増殖能増加が示された。 3.悪性エナメル上皮腫のPCNA陽性率は,エナメル上皮腫に比べ有意に高値を示し,PCNAがエナメル上皮腫の増殖能の指標として有用であることが示された。 4.c-myc蛋白は,PCNA陽性率と正の相関を示し,増殖活性化の高い腫瘍構成細胞で細胞質への局在傾向を認めた。本結果より,c-myc蛋白は,エナメル上皮腫において腫瘍細胞の細胞質へ分散しながら細胞増殖に関与することが示唆された。又,本蛋白は,核膜周囲の細胞質に強い染色性を示すことが,悪性能の指標となる可能性が示唆された。 5.ras蛋白は,PCNA陽性率と負の関係を示し,増殖能が高い腫瘍構成細胞で染色性の低下を認めた。本結果より,ras蛋白は,エナメル上皮腫において細胞増殖を直接促進する働きはないと考えられた。さらに,本蛋白質の染色性の低下が,悪性能の指標となる可能性が示唆された。 6.c-erbB-2蛋白は,PCNA陽性率との有意な相関は認めなかったが,濾胞型エナメル上皮腫の胞巣辺縁部の高円柱状細胞の分化に関することが示唆された。 7.p53蛋白は,PCNA陽性率で高値を示した悪性エナメル上皮腫,一部のエナメル上皮腫で発現を認め,これらの症例におけるp53蛋白の異常が示唆された。 以上より,PCNA,c-myc蛋白,ras蛋白,p53蛋白の免疫組織化学的検索が,エナメル上皮腫の悪性能に対するスクリーニングとして有用であることが示唆された。
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