研究概要 |
コラーゲン繊維と細胞間の相互作用は軟骨細胞や骨芽細胞などの増殖と分化に不可欠であることはよく知られている。私たちは、コラーゲンの種々の機能のうち少なくとも一部はコラーゲン結合蛋白を仲介していると考え、ブタ軟骨より数種のコラーゲン結合蛋白(CAP;collagen associate protein)を単離し、それらの性質について報告してきた。その中でCAP-1と仮称した蛋白質の機能解析をするために、cDNAの単離その構造決定および組織分布について検討した。出生直後のブタの軟骨を無菌的に細断し、ついで種々の酵素処理でプロテオグリカン基質を分解し、界面活性剤および蛋白分解酵素阻害剤を含むトリス緩衝液によるホモジナイズで細胞成分を除去後コラーゲン繊維を精製した。得られたコラーゲン繊維より68kDaCAP-1を精製し、その部分的なアミノ酸配列を決定した。これらの情報よりPCRプライマーを設計し、RT-PCRより得られたcDNA断片を用い、ブタ軟骨cDNAライブラリーから、完全長cDNAを単離し、構造を決定した。さらに、ブタの各組織および種々の培養細胞におけるCAP-1のmRNAの発現レベルについて、ノーザンブロットおよびRT-PCR法にて検討した。cDNAの塩基配列解析の結果、このコラーゲン結合蛋白は4つの繰り返し構造を持ち、C端近傍にはインテグリン認識サイトとして知られるRGD配列を有することが判明したので、RGD-CAPと呼ぶことにした。さらにRGD-CAPのmRNAの発現レベルについて検討した結果、脳を除く各種の組織でその発現が認められた。ヒト、ウサギ、マウスなどの培養細胞においては、軟骨細胞や一部の細胞株で高レベルに発現しており、一方、神経外胚葉由来の細胞株ではRGD-CAPのmRNAをほとんど検出できなかった。ブタの培養軟骨細胞においては、TGF-beta等のサイトカインにより誘導されること、最終分化するとその発現量が減少することなど明らかとなった。RGD-CAPはコラーゲン線維に強く結合するのみならず、I,II,IV型コラーゲンカラムにも結合し、しかもインテグリン認識サイトであるRGD配列を持つことから、コラーゲン結合性の新しい接着因子であることが示唆された。また、RGD-CAPの一次構造はヒト肺ガン由来の細胞株より報告されている遺伝子などと相同性を示した。私たちが蛋白として初めて精製したRGD-CAPは、これらの分子とファミリーを形成し、組織の発生、成長、修復の過程で、細胞増殖と分化を制御していると推察される。
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