研究概要 |
生体のカルシウムのバランスは、小腸からのカルシウムの取り込み、腎臓における再吸収,骨からのカルシウムの溶出と蓄積によって巧妙に調節されている。これらの組織には活性型ビタミンD[1α,25(OH)_2D_3]と副甲状腺ホルモン(PTH)の受容体が存在し、両ホルモンが相互に作用してカルシウムバランスを正に保っている。しかし、腎におけるビタミンDの活性化の制御機構ならびにその代謝に及ぼすPTHの作用に関しては充分解析されていない。 我々はこの2年間、以下の点に着目して研究を行った。腎臓は高度に分化した細胞が集合して一つのネフロンを形成していることから、各セグメントの機能も部位によって著しく異なる。従って、マイクロダイセクション法によりネフロンをセグメントに分割して、各セグメントにおけるビタミンD受容体を介した24-水酸化酵素の転写調節機構を検索した。その結果、(1)正常動物では24-水酸化酵素はネフロンの近位尿細管の曲部でのみ発現しているのに対し、ビタミンD受容体はネフロンの近位尿細管以外に遠位尿細管においても発現していること、(2)ビタミンDを含む低カルシウム食を与えることによって1α-水酸化酵素活性を亢進させると、近位尿細管細胞の24-水酸化酵素ならびにVDRの発現が著しく抑制されることを明らかにした。また、(3)ウズラにエストロゲンを投与して1α-水酸化酵素活性を上昇させた場合、1α,25(OH)_2D_3の合成を促進することなく1α-水酸化酵素活性のみを上昇させるビタミンD欠乏ラットを用いた場合にも、共通して近位尿細管のVDR発現が抑制されることを明らかにした。 以上の結果から、腎臓の近位尿細管細胞において25(OH)D_3から1α,25(OH)_2D_3あるいは24,25(OH)_2D_3を合成する代謝のスイッチは、VDRの発現を介して行われていること、さらに、腎臓の近位尿細管はVDRの発現状態によって、ビタミンDの内分泌器官から標的器官に変換することが示された
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