研究概要 |
(1)サイトカインのIL-1をマウスに注射すると,種々の組織でヒスタミン合成酵素のHDCが誘導されるが,大腿四頭筋および咬筋においてもHDCが誘導されることを明らかにした.IL-1によるこれらの筋肉でのHDC誘導は,電気刺激や運動の場合よりも速やかに起こり,IL-1は1μg/kgの微量の用量でHDCを誘導した. (2)マクロファージや血管内皮細胞は免疫学的刺激によりIL-1を産生することが知られている.筆者らは電気刺激や長時間の運動もIL-1の産生を刺激するのではないかと予測し,IL-1の抗体とmicro ELIZA systemを用いて,血清中のIL-1の測定を試みたが,検出出来なかった.そこで,筋肉組織について,組織化学的なくIL-1の検出を試みた.その結果以下のような事実を見出した.筋肉組織にはIL-1のβ型が存在し,これは大部分ミトコンドリアに分布し,非運動時にも存在する.IL-1βは不活性な前駆体として合成され,酵素のプロセシングにより活性型に変換され,細胞外に遊離されることが知られている.従って,筋肉組織でのIL-1βの存在は筆者らの仮説を補強するが,非運動時のミトコンドリアでの発見は予想外であり,これが何を意味するのか多くの興味ある疑問が沸き上がる.IL-1βこそ真の疲労物質かも知れない. (2)従来より疲労物質と考えられてきた乳酸に,大腿四頭筋および咬筋でのHDC誘導作用があるかどうかを検討したが,この可能性は少ないものと思われる. (3)運動による筋肉でのHDC誘導に影響を与える要因について現在検討している.性差や年齢差,トレーニングの有無,マウス系統の違いなどでHDC誘導の程度が異なることがわかってきた. 前年度の結果も含めて以上の結果は筆者らの以下の仮説を強く支持するものと思われる. 不活性型のIL-1β前駆体(筋肉細胞のミトコンドリアに貯蔵)→運動によるミトコンドリアの活性化とそれに伴うプロセシング酵素の活性化→活性型IL-βの遊離→血管内皮細胞への結合→血管内皮細胞におけるHDCの誘導→ヒスタミンの産生→ヒスタミンによる毛細血管細動脈の拡張,血管透過性亢進,筋肉痛(警告反応)→物質交換亢進,休息→疲労からの回復.
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