大臼歯の咬合面の裂溝底に生じるミネラル沈着現象と関連して、エナメル質表層の初期齲蝕、レジン床へのミネラル沈着様式を、高分解能電子顕微鏡によって検討した。その結果、齲蝕による明瞭なエナメル結晶の溶解は、表面より20〜30ミクロン離れた小柱構造をとる部位より始まっており、またこの部位では表層でみられた微細結晶による再石灰化現象がほとんどみられなかった。このことから、表層齲蝕に対しては酸による脱灰に競合でき、かつカルシウム・無機リンが表層下へ拡散可能な、これらのイオンの大量供給法を開発することが必要である。レジン床表面へのミネラル沈着物の特徴として、まず非細菌性ミネラル沈着物が生じ、これを土台として石灰化細菌を含んだ歯石の形成が続くことが判明した。このことは、エナメル質表面へのミネラル沈着現象と類似していることを示しており、超薄切片作製の容易さを考えると、今後のエナメル質裂溝の閉塞実験時、レジンを使った裂溝モデルは代用になりうると思われる。なお、in vitroの実験の前に、裂溝底に正常の場合観察される大型結晶が、裂溝全体にミネラルが沈着した場合、どのように変化するかについて、歯石により裂溝が完全閉塞した症例を使い確認しておく必要がある。 高分解能電子顕微鏡撮影に必要となる部位を低倍にて位置ぎめする時、交付金により購入した高解像度TVシステムを利用すると試料の電子線によるダメ-ジが明らかに軽減できることが明らかとなった。さらに、このTVシステムを使うと切片にドリフトが生じていないことをブラウン管上で確認後、高分解能電子顕微鏡写真を撮影でき、本研究の遂行上、非常に有益である。
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