肉眼的に沈着物によって閉塞された咬合面裂溝の中央部を、高分解能電子顕微鏡で観察した。低倍観察にて、結晶形態・サイズの異なるミネラル沈殿物で裂溝はほぼ完全に閉塞されていることが確認できた。裂溝の底1/3は大型多角形の結晶で占有されていた。中1/3は板状結晶で占有されていた。上1/3は微小な針状結晶からなる石灰化細菌で占有されていた。底1/3の大型結晶は単一結晶からなるウィットロカイトであった。結晶間の接合形態としては不整合な界面が観察できた。中1/3の板状結晶もウィットロカイトからなっていたが、走向の異なる小結晶の集合体であった。裂溝がプラークにより被われているが臨床的に齲蝕所見のない場合、裂溝底のエナメル質表面に薄い歯石形成がみられた。プラーク中の細菌内細菌間の詳細な観察を行ったところ、それぞれの部位に高分解能的に結晶格子の認められる針状・板状の初期結晶構造物が認められた。細菌のサイズに相当する類円形の結晶構造物も同様に観察されたが、その頻度は400メッシュグリッドの1穴に多くても数個と少なかったので、この構造物がのちの裂溝歯石の核となるとは考えにくいようである。このことからプラークの石灰化を促進させるには、何らかの人為的手段を加える必要があると考えられる。 以上の観察結果から、高齢者の咬合面齲蝕の現象の原因の一つとして裂溝へのミネラル沈着現象をあげることができる。裂溝底の大型結晶は早期自然閉塞に好都合な構造物であると思われる。早期に裂溝をミネラル沈着物によって閉塞させるには、加水分解によりカルシウム・リンイオンを遊離するような薬剤を裂溝底に填塞すると同時に、定期的に同剤を裂溝を補充することにより、細菌の石灰化も促進していく必要があると結論できる。
|