研究概要 |
口腔扁平上皮癌93例におけるアポトーシスの発現をin situ nick end-labeling(TUNEL)法で検索し、症例の臨床病理学的所見、5年生存率、細胞増殖、アポトーシス関連遺伝子発現との関係について詳細に検討した。TUNEL陽性のアポトーシス細胞の発現頻度は腫瘍の大きさ、リンパ節転移、臨床病期、腫瘍の発育形態、分化度、細胞増殖と有為に相関したが、細胞異型度、癌浸潤様式、組織学的悪性度とは相関が認められなかつた。またアポトーシス細胞の発現頻度の高い症例の5年生存率は有為に低下し、悪性度が高かつた。しかしCoxの比例ハザードモデルの多変量解析では、口腔癌の悪性度に関与する因子はリンパ節転移であつて、アポトーシス細胞の発現頻度は悪性度に関係する因子とはならなかつた。口腔癌におけるアポトーシスの解析はアポトーシス細胞の局在様式からも検索した。アポトーシス細胞の大部分が腫瘍胞巣の分化した領域にのみ発現する型のものは、細胞増殖率が低く、リンパ節転移陽性例も少なく、また全例5年生存しており、悪性度はきわめて低かつた。一方、分化度の如何に関わらず、アポトーシス細胞が特定の局在傾向をとらないで腫瘍胞巣全域にび漫性に発現する型のものは細胞増殖率が高く、リンパ節転移陽性例も多く、また生存率も有為に不良であつた。口腔癌におけるアポトーシスの発現と関係する遺伝子蛋白は細胞周期調節因子cyclin D1で、癌抑制遺伝子p53,アポトーシス抑制因子bcl-2、上皮増殖因子EGFR蛋白とは相関しなかつた。以上よりアポトーシスは口腔癌の進展と細胞増殖、細胞周期調節異常に伴つて発現する現象で、アポトーシスの解析は口腔癌の性格を知る上で有用と考えられた。
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