研究概要 |
単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の重複潜伏感染の存在を明らかにするため,同一個人で時期を異にするHSV-1分離株につき,分子疫学的に検索した. 対象と材料は,当教室で治療を行ったHSV-1感染症と口腔癌患者で,術後に唾液中に無症候性排出のみられた症例の中で一度治療した後に再来し,再び治療を行った症例の中から分離株のストックされていた1)同一個人で時期を異にする(3週以上の間隔)HSV-1感染症10例の23株と口腔癌患者で術後に無症候性排出のみられた13例32株, 2) HSV-1初感染症例で,その後再発病巣発現時に来院した9例の20株である.また,日を異にして差が見られるかどうかを知るため, 3) HSV-1感染症と口腔癌で術後に無症候性排出が3日以上ほぼ連続してHSV-1の分離できたHSV-1感染症10例の50株と無症候性排出例10例34株である. 各群の分離ウイルスストック株より,ウイルスDNAを抽出し,制限酵素BamHIとSallで切断し,電気泳動を行った後,UVライト下に切断パターンを同一個人毎に観察比較した. その結果,各群ともHSV-1感染症例では,全てが同一パターンを示し,同一株の再活性であった.しかし,無症候性排出ウイルス群で,3週以上の間隔で時期を異にする13例中9例の69%に,異るパターンを示すウイルス株が存在した.また,日を異にする分離株の比較においても,無症候性排出ウイルス群で10例中の2例に途中から異るパターンを示す株が存在した. 以上の結果から,HSV-1の重複潜伏感染の存在がより明らかなものとなった.
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