研究概要 |
抗原に対するより高い親和性を持つ抗体が免疫応答の時間経過とともに産生されてくる現象は,抗体の親和性の成熟と呼ばれる。本研究では,親和性成熟の過程の抗体の抗原結合フラグメントFabの三次元構造をX線結晶構造解析により明らかにすることを目的とした。対象としたマウスの抗ニトロフェノール(NP)抗体は,構造研究例がこれまでは極めて少ない,軽鎖としてλ鎖を有する抗体である。 免疫の一次応答のNIG9抗体については,遊離型Fab結晶と抗原ハプテンNPとの複合体結晶をともに分離能2.4A^^○で構造を解析した。二次応答の3B44抗体のNP複合体結晶も調製し,分解能2.9A^^○で構造を解析した。 これら構造を検討した結果,以下の知見が得られた。1)可変領域と定常領域が成すFab bend角は,k鎖の抗体に比して著しく大きく,λ鎖を有する抗体に特性である。2)抗原を認識する相補性決定領域CDRループの構造について,λ鎖でもcanonical構造が存在しうる。3)L1,L3,H1,H2およびH3のCDRループのアルミ酸残基の側鎖によって形成されるポケット構造がNPとの結合部位である。4)ポケットに結合したNPは,Trp91Lなどの芳香性側鎖との多くのvan der Waals相互作用と,His35Hなどの極性側鎖と6本の水素結合を有する。 一次応答のN1G9のNP複合体ではTrp33HからH3ループにわたる領域が過度に密な原子間接触を示し,一方,二次応答の3B44ではLeu33Hへの変異によりこの原子間接触が緩和されている。このような33H位での点変異と,H3ループでの組替え変異が,単独あるいは協調的に機能して親和性が成熟するという機構を構築できた。 二次応答後期の3B62抗体については,当初に得られた結晶とは異なる結晶型も得た。X線解析により適した結晶を得るため,抗原結合を担う可変領域ドメインを1本鎖Fvとして大腸菌に発現させることに成功した。
|