我々は以前に、ラットの肝がん細胞株AH130では、II型ヘキソキナーゼの転写レベルが特異的かつ劇的に亢進していることを報告した.本研究ではまず、ヒトのがん細胞株や、人工的にtransformした細胞株でのII型ヘキソキナーゼの転写レベルの解析を行った.その結果、悪性度が高いヒトのがん細胞株(HepG2)や正常細胞をRous sarcoma virusでtransformした細胞でも、II型ヘキソキナーゼの転写レベルが亢進していることを見い出し、この現象が悪性度の高いがん細胞の普遍的性質であると結論した.次いで、がん細胞において、II型ヘキソキナーゼの活性がどのようなメカニズムで亢進しているのかを明らかにするための研究を行い、以下の知見を得た. 1.細胞のがん化に伴うII型ヘキソキナーゼの転写レベル亢進の分子機構を解明するためには、遺伝子の転写調節機構の解明が必須であるので、本遺伝子のプロモーター領域を単離し、その構造解析ならびに転写調節活性の解析を行った.その結果、単離、解析した領域が、がん細胞での高い転写レベル発現に重要な役割を担っていることを明らかにした. 2.がん細胞では他のアイソザイムでなく、なぜII型アイソザイムが特異的に用いられているのかを解明すべく、本酵素の機能的特性について解析を行い、本アイソザイムを特徴づける一次構造を明らかにした. 3.がん細胞で観察されてきたII型ヘキソキナーゼのミトコンドリアへの結合の生理的意味を明らかにするために、ミトコンドリア結合型ヘキソキナーゼの機能解析を行った.その結果、がん細胞では、ヘキソキナーゼはミトコンドリアに結合し、酸化的リン酸化反応で合成されたATPを効率よく用いて解糖活性の亢進に寄与していることを見い出した.
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