研究概要 |
本年度の目標は、試験管内でのoriC複製の再構成系の構築にあった。そのため、複製反応に必要な各種の複製蛋白を精製した。本研究で精製した蛋白は、DnaA,DnaB,DnaC,SSB,DNAジャイレース,プライマーゼ、及びDNAポリメラーゼIIIホロ酵素である。DnaA及びDnaC蛋白については、新しく多量生産プラスミドを構築し、きわめて効率のよい新たな精製法を確立することができた。その他の蛋白についても、おおむね良好な純度を持つ酵素標品を精製できた。特にDNAポリメラーゼIIIホロ酵素の精製過程においては、この酵素の活性を特異的に阻害する因子を見いだした。この因子は、新しい複製制御機構の一員である可能性が考えられる。本研究で精製した複製蛋白を再構成することにより、試験管内でのoriC複製反応を行わせることができた。この系の最大の特徴である、DNA合成のDnaA蛋白に対する依存性も確認した。 さらに、複製開始蛋白DnaAについて、そのATP結合部位を、ATPピリドキサールを用いて標識する方法を確立した。現在、詳細な結合部位の同定を行っている。また、DnaA蛋白に対する合成脂質の効果を検討した。その結果、DnaA蛋白との相互作用には、脂質の親水性部位のアニオン性残基が必要であることを示した。さらにアニオン性脂質とカチオン性脂質との混合膜において、アニオン性脂質のクラスター構造がDnaAとの相互作用に必要であることを示した。実際の生体膜は種々の異なる脂質から成る混合膜である。本研究で見いだされた結果は、生体膜脂質によるDNA複製の制御という、これまでに全くなかった新しい視点を与える糸口となると評価できる。
|