研究概要 |
オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症は尿素サイクル異常の中でも最も発症頻度が高く、重症な疾患で、死亡率も高い。そこで遺伝子治療の対象疾患の1つになっている。アデノウイルスベクターを用いた遺伝子治療はこの目的にかなうが、アデノウイルスのウイルス毒性が問題になる。この場合、効果的なプロモーターを開発すれば投与するウイルス量も減らせるので、それだけ有利である。我々は、実用的なアデノウイルスベクターの開発を目指して2つの型のベクター、AdexCAGhOTC,AdexSRαhOTCの2つを作成した。前者は、アデノウイルスのE1A,E1B領域に、CAGプロモーター(5'側転写領域にニワトリβアクチンプロモーターとサイトメガロウイルスIEエンハンサー3'側にウサギグロビン遺伝子の3'フランキング配列)とヒトOTCcDNAを組み込んだベクター、後者は5Rαプロモーター(5'側転写領域にSV40 early promoterのRセグメント、HTLV-1LTRのU5セグメント、3'側にSV40のポリA配列)とヒトOTCcDNAを組み込んだベクターである。 双方のベクターを8週のspf-ashマウス(adult)の尾静脈から注入し、その効果を確かめた。AdexCAGhOTC(1.0×10^9pfu/animal)を投与した時のみ、肝のOTC活性値かせ正常化した。AdexSRαhOTCでは同様の結果は得られなかった。 肝OTC発現量をウエスタンブロットで測定し、また尿中オロト酸排泄量を測定し、AdexCAGhOTCの治療効果を観察した。その結果静注後60日間効果が持続することが確認された。この時の肝の組織像はほぼ正常であった。ヒトのOTC欠損症女性患者(OTC活性6.1%,Arg237Xのheterozyrote)由来のprimary human hepatocytesを用い、AdexCAGhOTCの感染実験を行った。10MOIの感染でほぼ正常の活性が、さらに20〜100MOIでは正常の〜40倍の活性値が得られた。このようにCAGプロモーターを用いたアデノウイルスベクターはOTC欠損症の遺伝子治療でかなり有望と推定できた。
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