本研究計画の目的は1)神経突起再伸展および分岐発芽を促す新規活性物質の探索、ならびに、2)神経突起再伸展および分岐発芽促進物質の作用機構の解析であった。まず、平成6年度の研究で、ポリアミン類の培養神経細胞の軸索損傷後の神経突起再生過程に対する作用を検討した。その結果、すべての天然ポリアミンが、成長円錐損傷後の基部からの突起再伸展を強く促進することを見出した。また、培養神経細胞の再生突起の分岐を促進することが示されている塩基性線維芽細胞成長因子とスペルミンを同時添加したところ、損傷部位からの突起再伸展と分岐形成の両者が促進された。以上のことから、軸索の再伸展と分岐形成は独立した機構により調節されていると考えられた。また、平成7年度の研究では同様の実験系を用いサイトカインの一つであるIl-2およびIl-6の作用を検討した。IL-2は損傷を受けた軸索の細胞体近位部での突起分岐数および分岐突起の長さを濃度依存的に増加させた。IL-2は、また、非損傷突起の長さおよび発芽を促進する作用も示した。一方、IL-6は損傷突起および非損傷突起の両者に対して形態的には全く作用を及ぼさなかった。以上の結果より、IL-2とIL-6はともに神経栄養効果を持つにも拘わらず、培養神経細胞の形態に対してはIL-2のみに再生促進作用が認められるものと考えられた。すなわち、IL-2とIL-6の神経細胞に対する作用は、異なった機序で発揮されるものと思われる。IL-2が中枢神経細胞の再生を促したことにより、この物質が神経変性疾患治療に対する新たなツールとなる可能性が浮上し、今後さらに研究が進展することが期待される。さらに最近では、切片培養系を用いて、物理的に神経回路網を切断した後に起こる神経突起再伸展をてんかん様の電気活動が阻害することを見出した。この結果は、早期発症のてんかん患者に見られる記憶障害に実験的根拠を与えるものと考えられた。
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