研究概要 |
抗下垂体抗体(APA)は,自己免疫性多臓器内分泌障害の病態形成のうえで重要な役割を担っていると思われる。我々は多くの症例を検討できるマス・スクリーニングテストとして抗下垂体抗体検出を目的としたELISA/APAを開発し,各種内分泌疾患の血清を用いてその臨床的有用性について検討した。多種内分泌疾患における抗下垂体抗体の検出は,免疫性甲状腺疾患についての成績では約20%にELISA/APA陽性がみられ,橋本病,バセドウ病とも陽性率はあまり変わらないが,橋本病に比べバセドウ病でC.I.値が高い症例がみられた。さらに陽性を示した検体をWB法により検索すると,橋本病11例中4例(36.4%),バゼドウ病21例中6例(28.6%)に陽性バンドがみられ,その多くが22kDaのバンドが反応していた。非臓器特異抗体である抗核抗体とELISA/APAとの相関をみたところ,抗核抗体とELISA/APAがともに陽性を示す症例は橋本病54例中3例(5.6%),バセドウ病106例中2例(1.9%)であり,ともに少数例であった。このことにより,抗下垂体抗体は臓器特異性抗体と考えられ,非臓器特異性抗体である抗核抗体とはオーバーラップしないものと思われる。糖尿病についてのELISA/APAによる検討成績では,IDDM64例中25例(39.1%)と高率に陽性がみられ,そのうちWB法で25例中16例(64.0%)が陽性を示し,22kDaのバンドを認める症例が多くみられた。また,NIDDM38例中2例(5.3%)にも陽性がみられ,WB法で2例中1例(50.0%)に陽性がみられた。抗下垂体抗体の22kDaのタンパクに対する抗体が糖尿病のIDDMと密接に関与し,何らかの免疫学的発症の機序に関係しているものと推察される。WB法での抗下垂体22kDaのバンドは,ウシ膵臓アセトンパウダーで一部吸収されることから,抗下垂体抗体は膵臓組織に存在する共通する抗原に対して反応する抗体であるものと考えられる。今後,さらに検討する必要があると思われた。
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