本研究申請時の我々の予備実験では、抗体を使用したaffinity chromatographyでAA4.1糖蛋白分子を部分精製していた。電気泳動ゲルからこのAA4.1分子を抽出精製し、部分アミノ酸配列を決定した。アミノ酸情報からオリゴヌクレオチドプローブを作製し、cDNAライブラリーのスクリーニングを行ったが陽性クローンは得られなかった。そこで、AA4.1分子の再精製を試みたが、再現性のある特異分子を特定化できなかった。結局、cDNAライブラリーのスクリーニングに用いたオリゴヌクレオチドプローブの配列情報源としたポリペプチドが非特異的分子由来のものと判明した。AA4.1分子の精製法に問題があったと考え、標的分子の至適可溶化条件を検討した。すなわちIIB4.2.1細胞(AA4.1強陽性細胞)の細胞表面蛋白を標識した後、各種界面活性剤で処理して免疫沈降法を試みた。しかし、SDS-PAGEでは、抗体特異的なバンドが全く検出できなかった。極めて弱い界面活性剤であるdigitoninを用いても同様の結果しか得られないことから、抗AA4.1抗体の認識する光源epitopeは界面活性剤で容易に壊れ、AA4.1抗原分子精製過程で抗体との反応性を失ったものと推定された。 界面活性剤による抗原の純化精製が極めて困難であることがわかり、我々は抗原精製と並行して発現クローニング法も試みた。というのは、発現クローニング法は抗原がnative formとして細胞膜上に発現されるため、抗体で認識される可能性が高いからである。具体的には、。IIB4.2.1細胞mRNA2μgよりcDNAをつくりpCDM8plasmidに組み込んだ。ライブラリーは約20のグループに分けて、各グループより精製したplasmid DNAをCOS7細胞にDEAE-dextran法(2回目以降はprotoplast fusion法)で導入し、AA4.1陽性細胞をMACSSあるいはFACSで集めた。3回以上のスクリーニングを行ったpCDN8plasmidクローンは1個ずつAA4.1cDNAかどうか確認実験を行った。現在までにライブラリーAの8.5万個を、ライブラリーBより19万個のクローンのスクリーニングを終了しているが陽性クローンはまだ得られていない。 結論としてはAA4.1のcDNAクローニングにはまだ成功していない。研究費交付期間内に陽性クローンが得られていないことは我々自身全く予想していなかった。抗体の認識する抗原エピトープの脆弱性が大きな障害となった。我々は、まだ現在も、AA4.1分子の精製法の再検討と発現クローニング法を継続して検討中である。
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