研究概要 |
本研究は持久的運動がインシュリン受容体遺伝子の発現に与える影響について、実験動物を用いて明らかにしようとするものである。平成7年度は持久的運動はインシュリン受容体の性質を変化させるか否かについて、二種類のインシュリン受容体mRNAを個別に定量することにより検討を加えた。更に、インシュリン作用のシグナル伝達経路を構成する多くの因子(IRS-1,PI 3-kinase,GLUT4など)の遺伝子の発現が持久運動の影響を受けて変化するか否かについても併せて検討するために、ラットに9週間の持久運動ランニングトレーニングを負荷し、骨格筋のインスリン受容体、インスリンシグナル伝達系のインスリン作用の分岐点に存在するIRS-1、および糖取り込みの調節能力を占めるPI3-kinase、及びGLUT4の遺伝子発現に及ぼす影響について検討した。 その結果、持久運動トレーニングにより(1)インスリン受容体の遺伝子発現が増加する。(2)二種類のインシュリン受容体の存在比は変化しなかった。(3)IRS-1の遺伝子発現が増加した。(4)PI3-kinaseの遺伝子発現が増加した。(5)GLUT4の遺伝子発現が増加した。 以上の結果から、持久運動トレーニングによる骨格筋のインスリン感受性の増大は、インスリン作用初期でおこるインスリン受容体の増加によるインスリンの結合数の増加とインスリンシグナルを下流に伝える上で重要な役割を果たしているIRS-1の増加とPI3-kinaseの増加が引き起こすGLUT4のトランスロケーションの亢進、GLUT4量自体の増加、これらの相互作用によっておこる可能性が示唆された。この結果の一部はBiochem.Biophys.Res.Commun.210:766-773.1995に発表した。
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