国民の10人に1人が糖尿病患者あるいはその予備軍と言われ、その数が年々増大しているわが国においては、運動や食事条件を考慮した非薬物療法の開発とその研究が重大であることは言うまでもない。日本人の糖尿病は、その9割以上がインシュリン非依存性糖尿病で、その病因は末梢組織のインシュリン抵抗性にあるとされている。本研究の目的は、持久的運動がインシュリン受容体及びインシュリンシグナル伝達系の遺伝子発現に与える影響について、実験動物を用いて明らかにしようとするものである。 本研究では、ラットに9週間の持久運動ランニングトレーニングを負荷し、骨格筋のイッシュリン受容体、インシュリンシグナル伝達系の分岐点に存在するIRS-1、および糖取り込み調節能力を占めるPI3kinase、さらにGLUT4の遺伝子発現に及ぼす影響について検討した。その結果、持久運動トレーニングにより(1)インシュリン受容体遺伝子の発現が増大した。しかし2種類のインシュリン受容体存在比率は変化しなかった。(2)ISR-1の遺伝子発現が増加した。(3)PI3kinaseの遺伝子発現が増加した。 以上の結果から、持久運動トレーニングによる骨格筋のインシュリン感受性の増大は、インシュリン作用初期でおこるインシュリン受容体の増加によるインシュリン結合数の増加と、インシュリンシグナルを下流に伝える上で重要な役割を果しているIRS-1とPI3kinaseの増加が引き起こすGLUT4のトランスロケーションの亢進、GLUT4量自体の増加、これらの相互作用によっておこる可能性が示唆された。
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