眼と頭を使って視線の方向を切り換えるいわゆる視線サッケードの角速度を計測し、(1)角速度が頭の回転角速度に依存するか、(2)角速度の個人差はどの程度あるかについて調べた。眼球運動はEOG法により、頭の回転は被験者が装着したヘルメットを、板ばねとユニバーサル・ジョイントを介して天井に固定されたポテンショメータの回転軸に接続して計測を行った。視線方向は頭の回転角と眼の頭に対する回転角の和として求めた。 頭静止時の視線サッケードの角速度は個人差があり平均246deg/secから360deg/secの範囲(L30°→0°の場合)にあった。これに対し頭も同時に回転させた場合頭の角速度が250deg/sec以下のとき視線の角速度はほぼ頭静止時と同じであったが、頭の角速度が250deg/sec以上では20deg/secの増加が認められた。また左60°と右60°の間のサッケードの場合には頭の角速度が200deg/secから700deg/secの範囲でほぼ直線的に視線サッケードの角速度の増加がみられ、350deg/secから800deg/secまで増加することが確かめられた。 視線サッケードの平均角速度だけでなくピーク角速度についても同様に頭の角速度とともに増加することが確かめられた。また視線サッケードの所要時間は頭の角速度の増加にしたがって減少することがみとめられた。これらのことから視線サッケードの時間中には頭の回転速度を補償するVOR(前庭性動眼反射)のゲインが低下することが明らかとなった。ゲインは3名の被験者について頭速度250deg/secのとき0.7〜0.4であった。また視線サッケードの速度を高めるには頭の回転と急速性眼球運動のタイミングをうまく調整することが必要であることも明らかとなった。次年度はこの点に関して個人差、スポーツ選手と一般被験者との差異、学習の可能性等について研究を行う。
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