Cs137γ線(0.64〜9.50Gy急照射および緩照射)とENU(0.1〜1.0mM、2時間処理)をそれぞれ単独に作用させた場合の遺伝的影響およびその機構について、メダカ生殖細胞突然変異実験系によって基礎的なデータを蓄積してきた。これらのデータを基に、二つの異変原への複合曝露の遺伝的影響とその機構を解析した。野生型雄メダカ50匹をCs137γ線4.75Gyで急照射し、(東大原子力研究総合センターから研究担当者の研究室までの移動に要した)20分後から0.5mM ENU水溶液に27Cで2時間泳がせ処理した。翌日から、3標識遺伝子座を持つ近交系AA2テスター雌メダカとペア-で交配させ、得られた受精卵について、優性致死率(DLR)、総突然変異率(TMR)、生存突然変異率(VMR)を調べた。単独で作用させた場合、4.75Gyγ線、0.5mM ENUいずれもメダカ個体の急性死を引き起こさず、両者の複合曝露も同様であった。DLR、TMR、VMRともに、精子/精細胞/精母細胞期曝露では両変異原単独曝露による誘発率の単純加算値よりも実験値の方が統計的に有意に高くなった。一方、分化精原細胞期以降の曝露では3指標ともに実験値が単純加算値よりもむしろ低い傾向を示したが、統計的には有意な差ではなかった。放射線と化学物質の複合被曝の遺伝影響は、曝露される雄生殖細胞の分化・成熟段階によって異なり、遺伝リスクの評価は、基本的には突然変異誘発感受性が最も高い精子期を念頭に置いて行われるのが望ましい。
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