p53遺伝子ノックアウトマウスのヘテロ個体どうしをかけ合わせ胎児を得、それぞれ培養線維芽細胞を樹立した。PCRを利用した解析によって、野生型ホモ(野生型)、変異型と野生型のヘテロ(ヘテロ)、変異型ホモ(ホモ)の3種の細胞が各々複数個樹立されたことを確認し、実験に用いた。これら3種の細胞の紫外線、X線に対する感受性をコロニー形成率を指標にして調べた結果、ホモ細胞、ヘテロ細胞ともに紫外線、X線照射後の生存曲線は野生型細胞と全く同じで、3種の細胞の紫外線、X線への感受性には差がないと結論された。これらの細胞におけるDNA損傷の修復速度を比較するために、DNA上の紫外線誘発損傷(ピリミヂンダイマーと6-4光産物)をモノクローナル抗体を利用して定量した。ピリミヂンダイマーの除去は遅く紫外線照射後24時間経ってもまだ50%近くのものがゲノムDNA中に残っていたが、、6-4光産物の除去は迅速で紫外線照射後12時間でほぼ全てのものが修復された。しかし、3種の細胞間には全く差が見られず、p53欠損細胞においてもDNA損傷の修復はほぼ正常な速度で行われると考えられる。一方、紫外線照射後の細胞周期の進行を解析したところ、野生型、ヘテロ細胞ではS期の細胞の比率が照射後12時間くらいまで減少しておりその後無照射細胞と同程度まで回復するのに対してホモ細胞では紫外線照射後のS期細胞の減少は観察されずかえって増加する傾向を示した。紫外線による姉妹染色分体交換(SCE)の誘発について調べたところ、無照射の細胞では3種の細胞とも全く同じSCEの数を示した。5J/m^2の紫外線照射によって約20のSCEが誘発されたが、この値には3種の細胞間に有意な差は見られなかった。10J/m^2の紫外線照射後の誘発SCEはホモ細胞で約40であるのに対して、野生型細胞、ヘテロ細胞では約20と大きな差が観察された。
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